【魅せる居合と実戦居合について】

もう、25年以上前のことである。ある刀屋で全日本居合道連盟の大先生という人を紹介された。その先生の話である。

『無外流は格好が悪い。例えば、英信流3段の人と無外流5段の人が一緒に演武していると同じぐらいの腕前に見える。それだけ無外流は格好が悪い。しかし、それだけ実戦的である。』という。無外流が実戦的であるというのはよく聞く。空手家の大山倍達が、『日本には居合の流儀はいくつもあるが、無外流ほど実戦的な居合はない。』と評した話も有名である。ではどこが実戦的なのであろうか。その一つは逆袈裟の抜き付けが多いことであろう。無外流の逆袈裟は右手首に負担がかかる。右手首の痛みに耐えて抜き付けなければならない。英信流の形には逆袈裟の抜き付けはないと聞く。逆袈裟の抜き付けはボクシングでいえばアッパーカットのようなもの。人間の死角といえる下からの攻撃は一番避けにくい攻撃である。無外流が実戦的と言われる一つの理由でろう。また英信流との違いはスピードである。通常、居合の抜き付けは『スーラリ』というリズムで抜く。無外流の抜き付けのリズムは《ラ》が抜けて『スリッ』である。

また、抜き付けから振りかぶりまでの軌跡は英信流では自分の正面を守るように一度刀の鍔を体の正面にもっていき次に真向に振りかぶる。《イチ、二》という二挙動(二拍子)の動きであるのに対して、無外流は抜き付けた位置から直線で真向に振りかぶる。つまり、一挙動(一拍子)で振りかぶる。自分の身を守りよりも先に斬れ!という考え方であろう。これらが、実践的=格好が悪い と言われる所以かと思われる。魅せる居合と実戦居合、どちらの居合を目指すか。それは人それぞれで良いと思う。真剣勝負のできない現代で実戦居合など無意味と思うならば魅せる居合を目指せばよいし、居合の目的は実戦(真剣勝負)と思うなら実戦居合を目指せばよい。